[ニューヨーク 31日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 仮想通貨ビットコインの短い歴史は、経験よりも期待が勝っていることを示している。このデジタルマネーは、手痛い低迷の中で、誕生から10年を迎えた。
詐欺や規制強化により、ライバル仮想通貨の発行は枯渇し、基盤となるブロックチェーン技術もまだ圧倒的な魅力をもつ応用プログラムを生み出してはいない。「サトシ・ナカモト」と称するビットコインの発明者が思い描いたような革命には程遠い状況にある。
10年前の10月31日、ビットコインに関する論文を公開したナカモト氏は女性なのか男性なのか、あるいはグループなのか、その正体は謎に包まれたままだが、銀行や政府を介さずに安全に送金する方法を提供したいと考えた。
粋を集めた最新技術、金融危機後のエスタブリッシュメント(既存勢力)に対する不信感、そしてデジタル通貨で金持ちになるという夢はあらがうことのできない魅力があった。
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ビットコイン価格は昨年20倍に跳ね上がり、開発者はわずか1年半の間に、仮想通貨(トークン)を発行して資金を調達する「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」を通じて200億ドル(約2.3兆円)近くを集めた。彼らは、競合する仮想通貨から安全な通信システム、予測市場に至るまで、あらゆることの構築を目指していた。
だが、それは出来過ぎた話だ。
サイバーセキュリティー会社の米カーボンブラックは6月、わずか半年間のうちに11億ドル相当の仮想通貨がハッカーによって盗まれたと推定した。数多くのトークンが消え、詐欺や間違った考え、ずさんな運営の犠牲となった。
中国は今年、取引を承認し新たな通貨単位を決める仮想通貨の採掘者(マイナー)とオフショア取引への取り締まりを強化。昨年にはすでに国内取引を禁止している。米証券取引委員会(SEC)はいくつかのビットコインETF(上場投資信託)の申請を却下し、大半のICOは有価証券関連法の監視下にあるべきとしている。
ビットコイン価格は昨年12月のピークから68%下落している。取引処理速度の遅さと、マイナーは多大な労力を必要とすることから、投機的な投資手段の域を出ない可能性は高い。ICOブームは収束し、ブロックチェーン技術の普及も限定的だ。
それとは対照的に、英科学者ティム・バーナーズ・リー氏が開発したワールド・ワイド・ウェブ(WWW)は、誕生から10年の段階でインターネットサービスのAOLがメディア大手タイム・ワーナーと合併。当時創立6年だったネット通販アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)は30億ドル近くを売り上げている。
それでも、ナカモト氏の夢は生き続ける。
セコイア・キャピタルやアンドリーセン・ホロウィッツのようなベンチャーキャピタルが、ブロックチェーン開発者の資金調達源として急速にICOに取って代わりつつある。また、投資信託フィデリティは、機関投資家向けに仮想通貨取引や管理サービスを提供するための子会社を設立している。
一方、米サンフランシスコに拠点を置き、仮想通貨の取引所を運営するコインベースは今週、3億ドルを調達し、同社の価値は80億ドル近くに達した。
だが、こうした投資が実を結ぶのを目にするには、さらに10年を要するかもしれない。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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