地方競馬の兵庫生え抜きで、重賞8勝など活躍したトーコーヴィーナスが引退、北海道で繁殖入りすることとなった。 3歳時は桜花賞(浦和)やロジータ記念(川崎)で2着など、積極的に他地区へも遠征し、上位争いを繰り広げたトーコーヴィーナス。2016年のレディスプレリュード(JpnII、大井)ではJRA勢に混じり果敢にハナを奪うと、残り100mまで先頭。勝ち馬タマノブリュネットに交わされた後、内からホワイトフーガに迫られるも必死に粘り、同着2着だった。 鞍上・大山真吾騎手はこう振り返る。「あの時はグランダムジャパン(地方競馬の世代別牝馬重賞シリーズ)の優勝がかかっていたレースで、優勝するには5着以内に入らないといけなかったんです」。陣営は作戦を熟考した末、「思い切ってこの馬のスピードを生かせる逃げのレースをしよう」という結論に至った。結果、同レース2着によりグランダムジャパン古馬シーズンを優勝。 さらにレース後のライバルとのエピソードを担当の吉見真幸厩務員が教えてくれた。「前の年の浦和・桜花賞(2着)以降、ララベルと一緒に走ることが多くて厩務員さんとも仲良くなりました。ララベルは本っ当に強かったんですが、レディスプレリュードで初めて先着することができ、『おめでとう』と言っていただけて嬉しかったですね。お互いに応援していましたから、ララベルがJBCレディスクラシックを優勝した時は僕も嬉しかったです」。 一方で、地元の平場レースで負けてしまうこともあった。「地元だと、馬が分かっているのか遊んでしまって、何でもないところで負けることもありましたね(苦笑)」(大山騎手)。そんな個性も含めて愛すべき馬だった。 デビューから寄り添い続けた吉見厩務員は「人間が好きで、人懐っこい馬でした。信頼関係を築くことができましたし、思い出を語ろうと思ったら、日が暮れてさらに日が明けるくらいたくさんあります。現役生活の最後は傷めた脚元をケアしながらでしたが、すごく夢を見させてもらいました。これからはいい仔を出してもらって、携われる日がくればいいですね」。 大山騎手も「いつか子供に乗れたらいいですね!いいスピードがあったので、受け継いでくれれば」と笑った。 トーコーヴィーナスを育て上げた吉行龍穂調教師は今年8月末、志半ばで病気のため急逝した。トーコーヴィーナスの仔たちはきっと、たくさんの人のいろんな想いを乗せて競馬場を駆けてくれるだろう。(取材・文:大恵陽子)
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