「ビットコイン伝道師」ロジャー・バー氏は、なぜビットコイン(BTC)ではなくビットコインキャッシュ (BCH)を支持するのか?
そこにはビットコインの技術発展と「使いやすさ」を天秤にかけた時、ビットコイン(BTC)のコミュニティーでが後者を軽んじているのではないかという深い疑念があった。
「人間が犯す大きな過ちの一つに政策やプログラムを結果ではなく意図で判断することがある。(中略)貧困者のため、貧しい人々のためという名目で行われてるプログラムのほとんどが、意図した通りの結果と正反対のものをもたらしている…」
これは、ノーベル経済学賞受賞者である故ミルトン・フリードマン教授が1975年にPBSとのインタビューで語った言葉だ。フリードマン教授は、最低賃金をめぐる論争を引き合いに出し、「口先だけの慈善家は時給を上げれば良いと思っているが、実際は、その最低賃金に満たないスキルを持つ人たちを失業させてしまっている」と続けた。
フリードマン教授が「意図」と「結果」の区別の重要性を強調したのは政策分野においてだが、コインテレグラフ日本版のインタビューに答えたバー氏は、同じ論理が「BTC vs. BCH論争」にも当てはまると考えている。
「ビットコイン・コアの開発者には良い意図があるのかもしれない。しかし、結果はこれまで酷いものだった。手数料は高騰し、取引は安定しない。かつてビットコインを取り扱ってきたビジネスがビットコインの受け入れをやめたケースもある。BTC、つまりビットコイン・コアの開発者の意図が良いものであったとしても、ビットコインの普及に対してはマイナスだった。だから私はすべての労力をビットコインキャッシュに使うことにしたんだ。ビットコインキャッシュは素晴らしい結果を出している」
ビットコインキャッシュは、2017年8月1日にビットコイン初のハードフォーク(分裂)により誕生した仮想通貨。ビットコインの処理能力問題解決のため、ネットワークの処理能力向上か取引データを圧縮するかで論争となり、結果的に前者を選択してビットコインの取引台帳から分岐して誕生したのがビットコインキャッシュだ。処理能力を示すブロックサイズは、ビットコイン(BTC)が1MBであるのに対して、ビットコインキャッシュ(BCH)は8MBとなっている。
バー氏は、ビットコインキャッシュの取引は早いし安いと主張。実際、世界各地のレストランや小売店で決済手段として普及しつつあるほか、3月にはマイクロソフトが受け入れを発表。また先日にはビットコインキャッシュ(BCH)のATMがここ1年、ヨーロッパで急速に増加しているとという報道もあった。さらに6月からアマゾンの決済サービス「Purse(パース)」がビットコインキャッシュ対応を開始した。
バー氏は、ビットコインの規模の拡大を目指す技術ライトニングネットワークの議論においても「結果」より「意図」を優先する傾向をみている。ライトニングネットワークは、ビットコイン(BTC)のスケーラビリティー(規模の拡大)問題や手数料高騰問題を解決し、マイクロペイメント(小額決済)を可能にする目的で開発中の技術。ビットコインのブロックチェーンネットワーク外に構築される決済ネットワークで、オフチェーンやセカンドレイヤー技術とも言われる。オンチェーンにおけるマイナーの承認を待たずして決済ができるため、取引にかかる時間が短いとされている。しかし、バー氏は次のように異議を唱えた。
「現在iPhoneではおそらく100種ほどのビットコインキャッシュのウォレットが利用可能だが、ライトニングネットワークのウォレットはゼロだ。いまライトニングネットワークを使いたいとしても、使えないではないか(中略)確かにエキサイティングだ。しかし、結果はどこだ?ノーリザルトだ。」
先日、仮想通貨ライトコイン(LTC)の創設者チャーリー・リー氏とビットコイン(BTC)が本質的な価値があるかどうかをめぐって交えた議論の中でも、バー氏の意図と結果の区別を重要視する姿勢が現れている。リー氏がビットコイン(BTC)は「検閲に対する抵抗」や「取引の不変性」、「生産にかかるコスト」、「限定的な供給量」をあげて本質的な価値があると主張したのに対してバー氏は、本質的な価値というのは「対象物そのもの」に宿るのではなく、それを使う人々の捉え方次第と指摘。とりわけ偽造を防ぐために必要な「生産にかかるコスト」に対してバー氏は、それはカール・マルクスの労働価値説を提唱しているのと同じだとして次にように反論した。
「もし私が泥のパイを作るのに1時間かけたとしても、時間をかけたという事実が価値をもたらすわけではない。一方、もし私がアップルパイを1時間かけて作ったら、そのアップルパイは1時間かけて作ったから価値があるのではなく、人々がアップルパイを楽しむからだ。人々は泥のパイを楽しまない」
さらにバー氏は、ビットコインの規模の問題解決を目指して開かれる技術系の国際的なコンフェレンス「スケーリングビットコイン」にも批判の矛先を向ける。過去にミランで開かれたスケーリングビットコインに参加したというバー氏は次のように述べた。
「少し騙された気がしたよ。スケーリングについての話も、ビットコインについての話もほとんどなかったんだ。みんな他のことを話していたよ。東京で開かれるコンフェレンスは少しマシかもしれないが、そうは思えない(中略)短期的に見て人々にビットコインを使ってもらうための方策は話し合われなかった。もしかしたらビットコインの名前を使ってビットコインのことではないことを話す新たな例なのかもしれない」
仮想通貨ニュースサイトのBitcoin.comのCEOでもあるバー氏は、かつてはスケーリングビットコインのスポンサーだったが、もうスポンサーになる予定はないと述べた。今月6日と7日に東京でスケーリングビットコイン「改善」が開かれた。
「人間が技術に仕えるのではない。技術が人間に使えるんだ。BTCの関係者は、科学プロジェクトで遊んでいて、人々にとって使いやすいかどうかは気にしていないようだ。(中略)ビットコインは使いやすいものであることを保証しなければならない。使いやすい版のビットコインは、ビットコインキャッシュだ」
とは言ってもビットコインとしてのブランドを確立しているのは、ビットコイン(BTC)だ。いつビットコインキャッシュ (BCH)がビットコイン(BTC)を超えるかについて「その日はいつか来るだろうが、時間がかかるだろう」と発言。2011年時点でビットコインは全ての要素を持っていたが、現在のBTCはほとんどその要素を持っておらずBCHが持っているという。
その上でバー氏は、次にビットコインキャッシュに対して大きな追い風が吹く時は、去年の年末のようにビットコイン(BTC)の手数料が再び一取引あたり50ドルほどつける時だろうと予想。その時「人々はビットコインキャッシュや他のアルトコインに駆け込むだろう」という見解を示した。
一方、「使いやすさ」の原理はバー氏のポートフォリオにも垣間見ることができる。バー氏は8月にCNBCのインタビューに答え、様々な仮想通貨に投資していると明かした。ビットコインキャッシュ(BCH)のほか、モネロ(XMR)、ダッシュ(DASH)、イーサリアム(ETH)、リップル(XPR)、ステラ(XLM)と少量のビットコイン(BTC)を保有しているという。
「私は価格は見ない。使いやすさをみている(中略)価格というのは需要と供給の関係で決まる。もし、使いやすければ需要が増え、価格が上がるだろう(中略)私は匿名通貨のファンだ。ファンジビリティー(代替可能性)について知っているか?ファンジビリティーはお金がお金である所以で重要だが、BTCとBCHのファンジビリティーは、本来あるべき姿よりはよくない。だから匿名通貨が好きなんだ。リップルは、伝統的な金融機関と提携を結ぶなど素晴らしい仕事をしている」
そしてバー氏は、分散型ファイナンス対伝統的な銀行システムの戦いについても言及した。
「もはや伝統的な銀行システムを使う必要がないというほど便利なモノを作ることだと考えている。伝統的な通貨より仮想通貨の方が便利だから人々が使い出す。だから私は戦いという見方はしない(中略)私が好きなスローガンはUnbank the Banked(銀行口座を持つ人々を解放する)。分散型決済ネットワークOmiseGO(オミセゴー)のスローガンだが、私はこのスローガンが好きだ」
ビットコインキャッシュが11月にハードフォーク?
バー氏は、ビットコインキャッシュが11月にハードフォークをするかもしれないという報道がなされていることに対して、ビットコインキャッシュの利用者に対して影響がないだろうと話した。
ビットコインキャッシュ最大のクライアントであるビットコインABCと自称サトシ・ナカモトのクレイグ・ライト氏のブロックチェーン開発会社nChainがネットワークのアップグレードをめぐって対立。イーサリアムの共同設立者ヴィタリック・ブテリン氏や中国マイニング大手ビットメインのジハン・ウー氏も論戦に参加する事態となっていた。
しかしバー氏は、この論戦について「ほとんど本質的なものはない」と主張。「ちょっとしたアップグレードに対する違いがあるだけなのに、ビットコイン(BTC)の関係者が大ごとにしたいようだ」と話した。その上で「11月に分裂が起こるとは思えない」という見方を示した。
(このインタビューは9月26日に収録されました)
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